その3  石橋は阿蘇の自然の上に分布する

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 全国に石橋は約1,800基あります。そのうち約1,700基は九州に分布しています。その内訳はおよそつぎの表のようになっています。その中で熊本県の石橋には幕末から明治初期にかけてつくられたものが多く、その後の日本の石橋のルーツとなっています。「肥後の石橋」とよばれる所以です。すなわち、熊本県では多くの石橋が江戸時代の技術力によってつくられたのです。石材は、ほとんどが「阿蘇の恵み」である溶結凝灰岩でした。

表 1.九州各県の石橋の架橋数
所在地石材等の特徴
大分県 約500基 ほとんどが阿蘇の溶結凝灰岩。
鹿児島県  約450基 ほとんどが姶良系の溶結凝灰岩。
熊本県  約320基 ほとんどが阿蘇の溶結凝灰岩幕末から明治初期のものが多い。  
宮崎県  約160基 北部は阿蘇の、南部は姶良系の溶結凝灰岩。
長崎県  約150基 安山岩が多い。
福岡県   約70基 石橋は南部に集中。ほとんどが阿蘇の溶結凝灰岩。
沖縄県   約30基 ほとんどが石灰岩。
佐賀県   約20基   

 大分県、鹿児島県の石橋は、ほとんどが明治後期から大正、昭和初期の建造になるものです。一方、熊本県の石橋は古く江戸末期から明治初期の建造に集中しています。
 石橋を建造するには良質の溶結凝灰岩が必要です。溶結凝灰岩は火山の噴火の際にマグマが火山灰や600度を超える高温のガス、軽石、岩礫などとともに山の斜面を流れ、堆積し、自重と熱によって溶結したものです。多くは部位によって溶結の程度が異なっています。軽石や岩礫は多くはレンズ状につぶれて含まれています。



溶結凝灰岩
図 1.溶結凝灰岩の例
阿蘇緑川支流の津留川 (美里町)

分布

図 2.熊本県の石橋の分布
調査・制作 東陽村石匠館・上塚尚孝館長















重ねて表示



図 3.熊本県の溶結凝灰岩の分布(白い部分)と石橋の分布を重ねて表示したもの

地図: Google.com 石橋の分布: 東陽村石匠館上塚尚孝館長


 石橋の分布は、溶結凝灰岩の分布と重なっています。そのように、石橋は阿蘇の自然の上に分布するのです。でも、石橋の分布の形状にも偏りがあって、必ずしも溶結凝灰岩の分布の形状とは一致しません。それは、石橋をつくるのに溶結凝灰岩は必要条件ではあっても、十分条件ではないからです。石橋がつくられた背景には、人の往来(交易)職人の系譜と存在(技術)長い歴史、そして建造当時の地域(手永)の惣庄屋や多くの人々の無償奉仕の精神などがありました。それらが幾重にも重なってようやくひとつの石橋はできたのです。


河床    河岸



図 4.花崗岩などになる河床と河岸


 石橋を建造するには河岸や河床が強固な花崗岩などで出来ていることが望ましく、それらの河岸や河床もやはり阿蘇の恵みであったといえるでしょう。特に花崗岩は火成岩の中でも深成岩のひとつとして強度が高く(強く)、比重も溶結凝灰岩の1.5~2.0倍程度高く(重く)、石橋の基盤として極めて適していました。

 表2に熊本県各河川系の石橋の架橋数を示します。熊本県には620基の石橋が架橋されました。そのうち現存する石橋の数は約310基です。約300基の橋が流失崩壊撤去されています。最近では御船川眼鏡橋(1988年流失)、阿芹場橋(2006年流失)、目磨橋(2006年流失)などが姿を消しています。


表2.熊本県の石橋河川別架橋数
(東陽村石匠館・上塚尚孝館長の資料による)


河川系 架橋数     現存数    流失崩壊数移転復元数埋没水没数
緑川水系  141   85   50    6    0
菊池川水系  105   46   46   13    0
氷川水系   50   32   16    1    1
球磨川水系   48   22   26    0    0
白川水系   37   24   12    1    0
坪井川水系   37    8   27    2    0
鏡川水系   23    2   20    1    0
その他  179   91   85    2    1
総数  620  310  282   26





    確認テスト
    問1.石橋の数は大分県が最多ですね。

         


    問2.肥後の石橋の分布の形状と阿蘇の溶結凝灰岩の分布の形状とはよく似ていますね。    

         

    問3 熊本県で最も多く石橋が架橋されたのはつぎのどの川でしょうか?         

    緑川水系      菊池川水系      球磨川水系 
 




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