小論文の書き方(ただ一点に収束させよ)   



入口紀男

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 小論文とは、筆者(入口紀男)の経験から言うと、「あること」を他人に知らせるための「仕掛け」の一つです。小論文を書く力は、ある意味では「人間力」の一つです。人生の様々な局面で役に立ちます。アメリカなどでは初等教育から高等教育まで「作文」(コンポジション)の科目があって、訓練に訓練を重ねます。日本では、義務教育で読み書きができるようになったらお終いで、あとは知識の詰め込みですね。そこで、小論文を、詰め込んだ知識で、つれづれなるままにあれこれ書いても、読まされるほうとしては何のことか分かりません。また、物ごとには多面性がありますから、そこで、あれこれ書いても、読まされるほうとしては、やはり何のことか分かりません。多くの人は小論文を書くにはどう書けばよいかが分かっていません。書くほうが分かっていないのですから、それを読まされるほうは、もっと分かりません。
 小論文は、読むほうが「ただ一つのこと」を理解してくれたら、それで大成功です。読者がその「ただ一つのこと」以上のことを理解することはありません。そのためには、小論文は「ただ一つのこと」だけに向けて収束させて書くことが求められます。良い小論文が分かりやすいのは、その「ただ一つのこと」が書いてあるからです。これを書くには、実は相当に力がいります。
 小論文の書き方には多くの参考書がありますから、ひとつでもよいので、読まれることをお奨めします。すると、書き方もがらりと変わるでしょう。しかし、良い小論文を書くとは、具体的にはどういうことか、筆者の「独自にしてかつ普遍的」と思われる書き方を以下申し述べたいと思いますので、ご参考にしてくださると幸いです。

 小論文は、普通は「タイトル(題目)」-「趣旨(はじめに)」-「調査検討方法(導入部分)」-「調査検討結果(独自に知り得た内容)」-「考察」-「結論(おわりに)」の順序でできています。 そのように決まっているわけでありませんが、そのように期待されています。小論文も2、3ページ以下の短いエッセイでは、これらの「小見出し」は不要ですから、続けて書いてかまいません。

 先ず最初に書くのは、「タイトル」ではありません。 何よりも最初に「結論」を書きます。この、最初に「結論」を書くことが、私が以下お奨めする小論文の書き方です。
 最初に、この「結論」を書くことができなければ、書くほうとしては何を書きたいのかが分からないわけですから、小論文全体が最初から成立しません。この「結論」がもつ中心的な思想が「ただ一つのこと」です。
 最初に「結論」を書いても、いずれ順序通りに並び替えるのですから、心配はいりません。ただし、これができるのは、WORD.docx や MEMO.txt など、パソコンが筆記用具となった今の時代だからできることですね。もっとも、白紙を2、3枚渡されて「このタイトルで、これこれの時間で、さあ書け」と言われることもあるかもしれません。その場合は「心」の中で「結論」を最初に完成させます。
結論」に限ることでありませんが、自ら何かを書いて改めてよく読んでみると、何か新たな「気付き」もあるかもしれませんね。それは、書かない人には味わえない、「書くこと」の恵みであり、書く人への「贈物」です。

 次に、自らが独自に調査して知り得た事項や独自に検討して知り得た「調査検討結果」を、結論の「ただ一つのこと」のための「証拠」としてあげていきます。それらの証拠が小論文のもつ生命線(核心)です。たとえ自らが独自に知り得たことであっても、「結論」の「ただ一つのこと」と無関係なことをあげるのは「みちくさ」(知識のひけらかし)です。この「調査検討結果」は、読む人がそれに興味をもって共有したいと思ってくれるかどうか、小論文としての価値がこれで決まります。

 次に「趣旨(はじめに)」を書きます。「目的」を「背景」の前に位置づけたものが「趣旨」ですから、「背景」と書いてもよく、「目的」と書いてもよいです。この「趣旨」で、「何」が問題となっているかを書きます。これがその小論文を書く「理由」です。もちろん、すでに書いた「結論」の「ただ一つのこと」に照らして書きます。この「趣旨」と「結論」は「一対一」で厳密に対応していなければなりません。「趣旨」は、読む人が以後も読み続けてくれるかどうかを決断する個所ですから重要です。

 次に、「調査検討方法(導入部分)」として、最初に提起した問題を解決するために何をどう調査したか、あるいは、何をどう検討したかを書きます。これが「趣旨」と「調査検討結果」とを結びつけます。「趣旨」から読み進んでくれた人が、自由になって考えることができるようになり、批判できるようになるのは、この「調査検討方法」です。批判のできない論文は評価することも信頼することもできません。「批判」は、「理解」を超えて、新しい「価値」をもたらすことがあります。
 この「調査検討方法」は、調査や検討をどう行ったかを単に紹介する個所ではありません。それは、「調査検討結果」を導き出すための「予告」の部分であり、また、「調査検討結果」に見落としがないという「保証」を与える部分です。この「調査検討方法」次第では「調査検討結果」も変わるわけですから、すると、「結論」の「ただ一つのこと」の真実性(客観性と普遍性)も消し飛んでしまうことがあります。

 次に、「考察」として、「調査検討方法」が「調査検討結果」を得るために果たして適切であったことを書き述べます。また、「調査検討結果」から「結論」の「ただ一つのこと」が導き出せることを予告します。小論文の価値を自由に述べることができるのはこの「考察」の個所だけです。先人の文献を敬意を払って引用しながら検討を加えます。また、この「考察」で、この小論文のもつ根源的な「限界」を自らの手によって誠実に書き述べます。

 最後に、読む人が一度は読んでみたくなるような、しかし、「結論」の「ただ一つのこと」を正確に表す「タイトル」を書きます。そのうえで、順番を「タイトル(題目)」-「趣旨(はじめに)」-「調査検討方法(導入部分)」-「調査検討結果(独自に知り得た内容)」-「考察」-「結論(おわりに)」の順序に並び替えます。
 必要に応じて、小論文の表紙などに「要約」を書くこともありますが、それは長い文章全体を短くしたものではありません。「要約」とは、「趣旨」と「結論」を書き続けて短くしたものです。





bb

初冬の湘南・葉山海岸

相模湾の向こうに横たわるのは伊豆半島。中央に屹立するのは富士。
水平線の少し右に浮かぶのは江の島。2020年。







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