小論文の書き方   



◇ ◇ ただ一点に収束させよ ◇ ◇


入口紀男

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 小論文とは、「あること」を他人に知らせるための「しかけ」の一つです。アメリカなどでは小学校から大学まで「作文」(コンポジション)の科目があって、訓練に訓練を重ねます。日本では、義務教育で読み書きができるようになったら「おしまい」で、あとは知識の詰め込みですね。そこで、小論文を、詰め込んだ知識で、つれづれなるままにあれこれ書いても、それを読まされる読者としては何のことか分かりません。多くの人は論文や小論文を書くにはどう書けばよいかが分かっていません。書くほうが分かっていないのですから、それを読まされるほうは、もっと分かりません。
 小論文は、読者が「ただ一つのこと」を理解してくれたら、それで大成功です。読者がその「ただ一つのこと」以上のことを理解することはありません。そのためには、小論文は「ただ一つのこと」だけに向けて収束させて書くことが求められます。良い論文が分かりやすいのは、その「ただ一つのこと」が書いてあるからです。これを書くには、実は相当に力がいります。
 小論文の書き方には多くの参考書がありますから、ひとつでもよいので、読まれることをお奨めします。すると、書き方もがらりと変わるでしょう。しかし、良い小論文を書くとは、具体的にはどういうことか、普通に通用すると思われる書き方を以下申し述べたいと思いますので、ご参考にしてくださると幸いです。

 小論文は、普通は「タイトル(題目)」-「趣旨(はじめに)」-「調査検討の対象と方法」-「調査検討の結果(独自に知り得た内容)」-「考察」-「結論(おわりに)」の順序でできています。そのように決まっているわけでありませんが、そのように書くことが期待されています。小論文も2、3ページ以下の短いエッセイでは、これらの「小見出し」は不要ですから、続けて書いてもかまいません。

 先ず最初に書くのは、「タイトル」ではありません。何よりも最初に「結論」を書いてください。多くの人が勘違いするのがこれです。最初に、「結論」を書くことができなければ、書くほうとしては何を書きたいのかが分からないわけですから、小論文全体が最初から成立しません。この「結論」がもつ中心的な思想が「ただ一つのこと」です。
 最初に「結論」を書いても、いずれ順序通りに並び替えるのですから、心配はいりません。ただし、これができるのは、パソコンが筆記用具となった今の時代だからできることですね。もっとも、白紙を二、三枚渡されて「このタイトルで、これこれの時間で、さあ書け」と言われることもあるかもしれません。その場合は「心」の中で「結論」を最初に完成させます。
結論」に限ることでありませんが、自ら何かを書いて改めてよく読んでみると、何か新たな「気付き」もあるかもしれませんね。それは、書かない人には味わえない、書くことの「恵み」であり、書く人への「贈り物」です。

 次に、自らが独自に調査して知り得た事項や独自に検討して知り得た「調査検討の結果」を、結論の「ただ一つのこと」のための「証拠」としてあげてください。それらの証拠が小論文のもつ生命線(核心)です。たとえ自らが独自に知り得たことであっても、「結論」の「ただ一つのこと」と無関係なことをあげるのは「みちくさ」(知識のひけらかし)ですからやめます(それらは、他の第二の論文にします)。この「調査検討の結果」は、読む人がそれに興味をもって共有したいと思ってくれるかどうか、小論文としての「価値」がこれで決まります。

 次に「趣旨(はじめに)」を書いてください。「目的」を「背景」の前に位置づけたものが「趣旨」ですから、「背景」と書いてもよく、「目的」と書いてもよいです。この「趣旨」で、「何」が問題となっているかを書きます。これがその小論文を書く「理由」です。もちろん、すでに書いた「結論」の「ただ一つのこと」に照らして書きます。この「趣旨」と「結論」は「一対一」で厳密に対応していなければなりません。この「趣旨」は、読む人が以後も読み続けてくれるかどうかを決断する個所ですから重要です。

 次に、「調査検討の対象と方法」として、最初に提起した問題を解決するために何をどう調査したか、あるいは、何をどう検討したかを書きます。これは「趣旨」と「調査検討の結果」とを結びつける機能をもっています。「趣旨」から読み進んでくれた人が、「自由」になって「考える」ことができるようになり、「批判」できるようになるのは、この「調査検討の対象と方法」の個所です。批判のできない論文は「評価」することも「信頼」することもできません。批判は、新しい「価値」をもたらすことがあります。
調査検討の対象と方法」は、何をどう調査し検討したかを単に紹介するだけの個所ではありません。それは、「調査検討の結果」を導き出すための「予告」の部分であり、また、「調査検討の結果」に見落としがないという「保証」を与える部分です。

 次に、「考察」として、「調査検討の対象と方法」が「調査検討の結果」を得るために果たして適切であったことを書き述べます。また、「調査検討結果」から「結論」の「ただ一つのこと」が導き出せることを予告します。自らの小論文の価値について自由に述べることができるのはこの「考察」の個所だけです。先人の文献を敬意を払って引用しながら検討を加えます。また、この「考察」の個所で、この小論文のもつ根源的な「限界」を自らの手によって誠実に書き述べます。

 最後に、読む人が内容を読んでみたくなるような、しかし、「結論」の「ただ一つのこと」を正確に表す「タイトル(題目)」をつけます。そのうえで、順番を「タイトル(題目)」-「趣旨(はじめに)」-「調査検討の対象と方法」-「調査検討の結果(独自に知り得た内容)」-「考察」-「結論(おわりに)」の順序に並び替えます。
 必要に応じて、小論文の表紙などに「要約」を書くこともありますが、それは長い文章全体を短くしたものではありません。「要約」とは、「趣旨」と「結論」を合わせて短くしたものです。









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初冬の湘南・葉山海岸 (2020年)

相模湾の向こうに横たわるのは伊豆半島。中央に屹立するのは富士。
水平線の少し右に浮かぶのは江の島。







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