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【参考図書】 <水俣病>事件の61年《未解明の現実を見すえて》
富樫貞夫 2017年11月22日刊
各位 拝啓
水俣病事件は公式確認以来 61年となりますが、未だ全貌が明らかでありません。 大きな原因の一つとして、医科学研究の停滞がありました。研究が上から目線で、仮説概念を絶対化した神経内科医を中心に進められ、汚染の実態やヒトへのメチル水銀の健康影響に対し、事実から問題を把握しようとしませんでした。さらに、国際的な研究の進展も全く参考にしませんでした。事件の予防も救済も、実証や科学的根拠(EBM)に基づかない診断基準で割り切り、すべて処理されてきた歴史があります。その結果日本では、メチル水銀汚染研究のレベルも予防対策の実施も立ち後れてしまいました。 もう一つの要因は、「水俣病」という病名が問題でした。「水俣病」という病名は、政治力学が内包された社会概念であり、さまざまな差別を生み出しました。事件の解決すべてが「水俣病」に固執して発想され、少なからず医科学研究にブレーキを引くこととなりました。その結果、生じた一切の不利益を、汚染地区住民や患者など被害者に負わせてしまったのが、事件史だったと思います。 今回、著者の富樫先生、熊本大学の慶田勝彦先生(熊本大学学術資料調査研究推進室長・水俣病部門)および関係スタッフと話し合い、病名「水俣病」を無条件に使用することは問題であると考え、<水俣病>とヤマカギをつけ使用することにしました。 この本の問題提起が、事件史の新しい認識と読み替え、メチル水銀汚染研究の進展をもたらすことを願っています。 ご一読くだされば幸いです。 敬具 2017年11月吉日
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