「水俣病に終わりはない」(原田正純・池澤夏樹ほか)という声がある中で、最近、それを終わらせようとする動きが強まっている。これをどう受け止めるべきか。事件史を踏まえながらその点を少し掘り下げて考えたい。
水俣病特措法(2009)は水俣病問題の「最終解決」をその目的に掲げた。水俣病被害者の補償・救済をめぐる紛争を終結させ、それを実現しようというのである。つまり、この法律によれば、紛争解決が「最終解決」の内容ということになるが、はたしてこれは「最終解決」の名に値するものであろうか。
いわゆる「最終解決」の内実を知るためには、水俣病の歴史の中で、過去の二つの事例が参考になる。一つは1959年の「見舞金契約」であり、もう一つは1995年の政治解決である。ここでは、水俣病問題全体の中で補償・救済の問題がどのような位置を占めているかを検討し、特措法のいう「解決」は、水俣病問題の中では、決して唯一の問題でもなければ最重要の問題でもないことを明らかにする。
【講演者プロフィール】
山形県出身。東北大学法学部卒。同大学助手を経て熊本大学講師、助教授、教授(法学部)を歴任。志學館大学法学部教授、熊本学園大学社会福祉学部教授を経て、現在、熊本大学名誉教授、水俣病研究会代表、熊本大学水俣病学術資料調査研究推進室員。
主著に、『水俣病事件と法』(単著) 石風社 1995 年、『水俣病事件資料集』(全2巻)(共著)水俣病研究会編 葦書房 1996 年、『水俣学研究序説』(共著)原田正純・花田昌宜編著 藤原書店 2004 年などがある。水俣病事件の他、訴権論史、ナチ・ドイツの 政治司法に関する研究論文もある。