田中知啓「数珠玉」(メッセージ中の詩)
私が小学生のころ、犬が死ぬのを見ました
銀色の毛並みが美しいスレンダーな美女でした
彼女は庭を走りまわり、苦しそうにないたあと
小屋の前に倒れてもがきながら
だんだん動かなくなりました
妹が駆け寄ろうとするのを
母が必死にひき止めていました
私はそれをだまって二階の窓からながめていました
父が仕事から帰ってきて彼女を庭の隅に埋めました
妹は大声をあげて泣き
母は花をそなえて手を合わせていました
父はその間、難しい顔でスコップを動かしていました
私はそれをだまって二階の窓からながめていました
やがて誰もが彼女のことを忘れたころ
埋めたところからなぜか数珠玉がはえていました
私はそれをだまって摘んだあと
だまって二階の自分の部屋に持って帰り
だまって糸に通しました
十粒ぐらい通したころ
涙が目にたまるのがわかりました
私はそれを一生懸命こらえました
彼女のことをずっと覚えていたかったので
決してこぼさないように痛みは胸にとどまるように
一生懸命こらえました
今年の秋も庭に数珠玉がなりました
銀色の毛並みが美しいスレンダーな美女でした
(高校総合文化祭全国第一席)
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